年金の逸失利益
賠償は年金の性質による
年金受給者が交通事故で死亡した場合、年金について逸失利益としてご遺族(相続人)への賠償が認められるかどうかは、被害者が受給していた年金の性質によって判断されています。
例えば、老齢年金については逸失利益性を肯定し、遺族年金については逸失利益性を否定するのが最高裁の判例です。
それら年金の逸失利益に関する最高裁の判断をご紹介し、また、年金逸失利益の計算をご案内します。
老齢年金
国民年金の老齢基礎年金について、最高裁平成5年9月21日判決は、死亡した被害者の逸失利益として相続人が加害者に賠償請求できると認めました。
それ以前に最高裁が逸失利益性を認めていた公務員の普通恩給について、「損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであるとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められる」としたうえで、
老齢基礎年金の逸失利益性を認める理由として、「その目的・ 趣旨は右と同様のものと解される」と述べています。
遺族年金
厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金について、最高裁平成12年11月14日判決が、逸失利益性を否定する判断を示しました。
その理由として、以下の3点を挙げています。
①専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。
②受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして、社会保障的性格の強い給付ということができる。
③受給権者の婚姻、養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて、その存続が必ずしも確実なものということもできない。
障害年金
国民年金の障害基礎年金と、厚生年金の障害厚生年金について、最高裁平成11年10月22日判決は、受給者が不法行為により死亡した場合に逸失利益としいて相続人が賠償請求できると認めました。
逸失利益性を認める理由としては、「いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している」と述べています。
ただし、この判決は、障害年金の加給年金については、以下のとおり逸失利益性を否定しました。
障害年金の加給年金について
上記の最高裁平成11年10月22日判決は、障害基礎年金のうち子の加給分と、障害厚生年金のうち妻の加給分について、「年金としての逸失利益性を認めるのは相当でない」と判示しました。
逸失利益性を否定する理由として、以下のことを挙げています。
「受給権者と一定の関係がある者の存否により支給の有無が決まるという意味において、拠出された保険料とのけん連関係があるものとはいえず、社会保障的性格の強い給付である。」
「子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了することが予定されていて、基本となる障害年金自体と同じ程度にその存続が確実なものということもできない。」
公務員の退職年金
国家公務員の退職年金については、最高裁が昭和50年10月24日判決で逸失利益性を認めています。
地方公務員の退職年金については、最高裁が平成5年3月24日判決で逸失利益性を認めています。
年金逸失利益の計算
年金受給者の死亡事故で、逸失利益性が認められる年金がある場合、その年金逸失利益の計算式は以下のとおりになります。
年金の年額 × (1-生活費控除率) × 平均余命年数の中間利息控除係数 |
このうち平均余命年数については、厚生労働省が公表している簡易生命表を用いるのが一般的です。
中間利息控除係数としては、ライプニッツ係数が多く用いられていて、以下のページをご覧いただければと思います。
生活費控除率について、以下ご案内します。
生活費控除率の一般論
死亡事故の被害者は、もしその後も生存して収入を得た場合、生活費の支出もします。
その生活費の支出分を賠償額から差し引くのが生活費控除であり、その控除の割合が生活費控除率です。
日弁連交通事故相談センター東京支部(赤い本)は、以下のとおり示しています。
- 一家の支柱
- 被扶養者1人の場合 40%
- 被扶養者2人以上の場合 30%
- 女性(主婦、独身、幼児等を含む)30%
- 男性(独身、幼児等を含む)50%
- 兄弟姉妹のみ相続人のときは別途考慮
- 年金部分については通常より高くする例が多い
年金の生活費控除率
上記のとおり年金部分についての一般論がありますが、実際には、収入が年金だけだったか、ほかにも賃金等の収入があったかによって、年金収入から支出される生活費は異なる想定になります。
そのことを考慮した以下のような論考があります(赤い本1996年版下巻掲載の裁判官講演録抜粋)。
①収入が年金だけだった場合
- 収入に対する生活費の割合は高まるのが一般的であると考えられるが、極端に高い生活費控除率は選択すべきでなく、おおむね50%~80%程度の範囲内で個別具体的に調整を図るのが相当と考えられる。
②賃金等を主たる収入として年金も併せて受給していた場合
- 賃金等と年金とを合計した総収入を基礎収入とし、一般的な生活費控除率を用いるのが相当と考えられる。
③賃金等の収入もあるが僅少または年金収入に比べて少ない場合
- 一般的な生活費控除率を若干加算する程度の数値から、上記①の生活費控除率の低めの数値までの範囲内で適宜選択していくのが相当と思われる。
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さらに具体的には、ご相談いただけますでしょうか。
このページの著者
弁護士 滝井聡
神奈川県弁護士会所属
(登録番号32182)