有給休暇の休業損害
使途を限定した休暇かどうか
有給休暇の種類によって異なる
有給休暇の休業損害については、交通事故の被害者が使った有給休暇が使途を限定した休暇かどうかという種類によって、賠償上の扱いが異なります。
すなわち、有給休暇のうち、使途を限定しない労働基準法上の年次有給休暇については休業損害として賠償が認められています。
これに対し、有給の病気休暇(傷病休暇)については、使途を限定した休暇として、休業損害の賠償を認めないと考えるのが大勢です。
年次有給休暇について
休業損害については、給与所得者が勤務先に書いてもらう休業損害証明書に、事故により仕事を休んだ期間の内訳として、「欠勤」「年次有給休暇」「時間有給休暇・遅刻・早退」「半日欠勤」「半日有給休暇」の日数や回数を記入する欄があるのが一般的です。
そのうち年次有給休暇については、労働基準法39条に定める使途を限定しない年次有給休暇であって、必要に応じて自由な時期に取得できる休暇という付記があります。
この年次有給休暇は、使途が限定されず、すなわち使いたいときに自由に使えるという点で財産的価値があり、それを事故により失ったものとして休業損害と認められています。
年次有給休暇がある場合の損害計算
年次有給休暇を取得した場合、その日の休業損害の額は、欠勤して給与が支給されなかった日と同じになります。
すなわち、休業損害の賠償請求をするうえで、以下の計算式の「休業日数」に年次有給休暇の日数も含めて計算することになります。
〔休業損害の一般的な計算式〕 |
基礎収入の日額 × 症状固定までの休業日数 |
病気休暇(傷病休暇)について
有給休暇については、勤務先によっては、私傷病の療養のために取得できる有給の「病気休暇」(または「傷病休暇」など)という制度があります。
そして、この病気休暇は、使途を限定した休暇であって、自由な時期(使いたいとき)に取得できるものではないという点で、上で述べた年次有給休暇と異なります。
このため、病気休暇の給与分については休業損害と認められないと考えるのが大勢です(赤い本2018年版下巻42頁裁判官記載、名古屋高裁令和3年5月13日判決など)。
休業損害証明書においても、病気休暇は、有給休暇とは別に、「使途を限定した休暇(傷病・忌引等)」として記入するようになっています。
使途を限定した休暇かどうかの交渉
病気休暇について一般論としては上記のとおりですが、勤務先によっては、いろいろな選択肢の中から私傷病の療養を選択して有給休暇にできるという制度を設けているところもあります。
その選択肢によっては、自由な時期に取得できる有給休暇といえそうな場合があり、使途を限定した休暇ではなく休業損害として認めることができないか検討し交渉します。
また、病気休暇について勤務先から支給される給与は基本給であるのが通常ですので、出勤していれば残業をしてはずといえる場合、その残業時間の休業は使途を限定したものではないとして交渉することもあります。
公務員について
上で述べた病気休暇は、公務員については法令上の病気休暇となります。
また、年次有給休暇は、国家公務員については人事院規則上の年次休暇となります。

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このページの著者

弁護士 滝井聡
神奈川県弁護士会所属
(登録番号32182)